SPICEで学ぶ電気回路の基礎 講座
How to use > 目次       他のページへは目次のリンクよりジャンプして下さい


9. 過渡現象
 
 電気回路や電子回路を動かす場合、電源を接続し電源のスイッチを投入して動かす。動作状態の回路に外部から信号を入力する場合もある。これまでの議論では、そのような回路を起動したり信号を入力したりする場合に、回路の電圧電流が初期値からどのように変化するかなどは考えなかった。直流も含めて回路起動や周期性のある信号を入力後、十分に時間が経過した状態のみを、検討対象としていた。

 本章では、この限定を取り払い、電源スイッチオンや信号が新たに入力された後や周期性のない信号が加えられた時に、時間経過に従って回路の電圧電流がどのような動作をするかを解析する方法を学ぶ。

 回路に加える信号は、これまでは直流や周期性がある交流(正弦波、非正弦波)に限定されていたが、これに周期性のない信号(単発のものなど)も含んでかまわず、限定のない最も自然な条件で、時間経過に沿って回路を検討することになる。

9.1 定常状態と過渡現象
定常状態
 一般に「定常(ていじょう)」とは、「一定していて変わらない」ということを意味するが、定常状態という言葉はいろいろな分野において使われ、意味が微妙に違っているので注意が必要である。
 流体力学では、着目している流体物が時間とともに変化しない状態を定常状態という(Wikipedia)。熱力学や統計力学では、巨視的な量について時間的に変化が全くない平衡状態と区別して、時間変化(流れ)はあるがその速度が変化しないような状態を定常状態と呼んでいる。この場合、定常と言っているが、実際は動的な現象であり、例えば川の流れのように、実は変化しているが変化の様相が時間的に一定の状態のことである。
 付け加えると、平衡状態とは定常状態の特別な場合といえる。系に入るものと出るものが統計的に区別できない状態、外部との間に物質やエネルギーの正味の移動がない状態、巨視的には変化していない ように見える状態である。

 電気回路、電子回路における定常状態とは、熱力学などに等しいと言える。つまり、一定の直流電流が流れている状態、または交流電流が流れているので電流は変化しているが、考えている時間において電圧や電流の変化が一定の周期で繰り返されている状態である。当然このとき素子定数にも変化がないものと考える。
過渡現象  過渡現象(かとげんしょう、transient phenomenon)とは、電圧電流が0である静的状態を含むある定常状態から十分に時間が経過し、別の定常状態になるまでの状態の、時間経過につれて状態が変化する現象のことである。この状態を定常状態に対して、過渡状態という。
なお、十分な間隔で周期的な信号が入った場合などは、過渡状態と定常状態が交互に繰り返されることになるので、過渡現象を非周期的な現象とは断定できないことも忘れてはならない。

回路に過渡現象を引き起こす要因の例としては、
・スイッチ投入などにより急に電圧または電流を加える
・スイッチ開放などにより急に電圧または電流を取り去る
・定常状態にある回路に、任意の信号やノイズを加える
素子の回路定数を変化させるまたは変化する

 過渡現象は、ディジタル回路のパルス信号に対する回路応答の面から、今後も重要な検討課題であると言われている。また、回路によっては、スイッチ投入や開放時などに、回路内に予期しない大電圧や大電流を引き起こして回路素子を損傷することがある。このような場合、過渡現象から回路を見直さなければならない。
過渡現象を解析する
とは
 電気回路で使われる各素子に発生する逆起電力vや流れる電流 i は、時間の関数として下表のように表すことができる。

電圧電流・素子
抵抗R(Ω)
インダクタL(H)
キャパシタC(F)
逆起電力 v
v=Ri
v=Ldi/dt
v=1/C∫i dt
流れる電流 i
i=v/R
i=1/L∫vdt
i=Cdv/dt

これらの式をキルヒホッフの法則により、求めたい回路方程式に組み込む。回路方程式が、微分積分方程式となる場合は、微分だけの微分方程式に変形して表す。
 第1章で述べたように集中定数回路では、理想的な抵抗素子を考えるので、抵抗定数は時間の関数ではない。インダクタやキャパシタが入ってくると、回路方程式は時間を変数とした微分方程式となる。回路内にインダクタまたはキャパシタのどちらか1種類だけの場合(単エネルギー回路)は、微分方程式は1階線形微分方程式となり、インダクタとキャパシタの両方が含まれる場合(複エネルギー回路)は、2階線形微分方程式となる。当然それぞれの解き方が違ってくる。簡単にこれらの基礎事項を微分方程式の解法(常微分方程式)(PDF)にまとめた(改訂:2012-08-30)。詳細は専門書を参照願いたい。

結局、過渡現象を解析(過渡解析)するということは、時間tを独立変数とする微分方程式を解くということに帰着する。
9.2 RC,RL回路の過渡現象
直流電源の接続
(RC直列回路)
 図9.1(a)に示すような回路を考える。この回路でスイッチを閉じると、スイッチが理想的に動作すると考えれば、スイッチオンと同時にそれまで0Vであった抵抗とキャパシタ直列接続部に、Eという電圧が加えられるということである。これを横軸に時間 t をとったグラフで考えると、図9.2のような t<0ではレベル0でt>0ではレベルEとなるステップ状の信号波形で表される(単位ステップ関数u(t)のE倍)。t=0 では理想的には電圧レベルは、0〜E のどこかにあるとされる。

  
  
図9.1(a)
図9.1(b)
図9.2

 図9.1の回路についてキルヒホッフの電圧則により、回路方程式を立てる。



以上の結果の電圧、電流波形を図9.3に示す。ただし横軸のτ=CRとする。

図9.3
直流電源の接続
(RL直列回路)
次に、図9.4(a)に示すような回路を考える。図9.1と同様にこの回路でスイッチを閉じると、スイッチが理想的に動作すると考えれば、スイッチオンと同時にそれまで0Vであった抵抗とインダクタ直列接続部に、Eという電圧が加えられるということである。これを横軸に時間 t をとったグラフで考えると、図9.2のような t<0ではレベル0でt>0ではレベルEとなるステップ状の信号波形で表される。t=0 では理想的には電圧レベルは、0〜E のどこかにあるとされる。

  
  
図9.4(a)
図9.4(b)

 図9.4の回路についてキルヒホッフの電圧則により、回路方程式を立てる。



以上の結果の電圧、電流波形を図9.5に示す。ただし横軸のτ=R/Lとする。
図9.5
時定数  図9.1のRC直列回路や図9.4のRL直列回路は、図9.2のようなステップ波形または方形波が入力されたときに、図9.3や図9.5のように簡単に波形を鈍らせることができる回路である。電気電子回路において、その波形の鈍り具合の目安として、時定数(一般的には「じていすう」と読む。「ときていすう」、「ときじょうすう」とも呼ばれる。)が使われる。時定数の記号としては、τ(タウ)が良く使われる。時定数は、電気電子回路以外の物理学、工学、社会科学においても、システムの応答を示す値として使われている。

RC直列回路において、キャパシタの端子電圧Vcのt=0における曲線の傾きを求めと、

RC直列回路では、τ=CR と定義する。上式で、印加電圧Eが一定なので、τの大きさにより曲線の傾きが決定されることがわかる(図9.6参照。直線が傾きを示す)。
τの単位次元は、C=[クーロン]/[ボルト] と
R=[ボルト]/[アンペア]=[ボルト]/([クーロン]/[秒])より
C×R=[秒]となり、時間の次元である。

つまり、時定数τの時間が経つと、波形が最終定常値Eの約63.2%(=1-exp(-1))となることがわかる。また、t=2τでは約86.4%、t=3τでは約95.0%、t=7τでは約99.9%となる。


上記と同様にして、RL直列回路において、インダクタ電圧VLのt=0における曲線の傾きを求めると、

RL直列回路では、τ=L/R と定義される。上式で、印加電圧Eが一定なので、τの大きさにより曲線の傾きが左右されるがわかる(図9.7参照。直線が傾きを示す)。
τの単位次元は、L=[ボルト]×[秒]/[アンペア] と R=[ボルト]/[アンペア]より
L/R=[秒]となり、時間の次元である。

CR直列回路と同様に、時定数τの時間が経つと、波形が最終定常値E/Rの約63.2%(=1-exp(-1))となることがわかる。また、t=2τでは約86.4%、t=3τでは約95.0%、t=7τでは約99.9%となる。

図9.6 RC直列回路の電圧電流(直線は接線)
図9.7 RL直列回路の電圧電流(直線は接線)
(クリックで拡大)

SPICEによる確認: RC直列回路/RL直列回路の過渡応答をSPICEと数式で解く
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RC.sch Transient_Response_RL.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 上記でRC直列回路とRL直列回路の回路方程式をそれぞれ解きましたが、その解が合っているかどうかをSPICEで確認します。
回路図の上側は、どちらも信号源として直流電源を接続しています。これは回路図の左側に示したように短い時間(例えば10ns程度)で0Vから立ち上がるパルス信号源を使用しても構いません。
回路図の下側には、微分方程式である回路方程式を解いた結果のキャパシタやインダクタ両端電圧と回路電流を表す数式を、アナログビヘイビア・モデルを使って記述し、それぞれ電圧と電流として発生させています。
解析の設定と実行
(過渡解析)
過渡解析を0〜1msまで行います。ここで注意が必要な点は、信号源がパルス信号源の場合には特別な設定はいりませんが、信号源に直流電源を使用して過渡現象をシミュレーションする場合は、基本的に以下の両方の設定が必要であるということです。(SPICEの種類によってはTopSpiceのように片方だけで良い場合もあります。)
・キャパシタでは初期電圧、インダクタでは初期電流を「IC=」で設定する。(通常はデフォルトでIC=0となっている。)
・過渡解析設定で、UICオプションを有効にする。(過渡解析の初期バイアス計算を行わずIC設定を採用する。)
以上の設定により、直流電源入力がステップ関数として計算処理されることになります。
解析結果の検討 SPICEが過渡解析を行った計算結果の電圧電流波形V(C1)、I(R1)と、微分方程式を解いて求めた結果の電圧電流波形V(C2)、I(R2)が上図のように一致しました。計算が合っていたことが確認できます。なお、SPICEの過渡解析は、数式を解くという解析的にではなく、誤差が一定以下になるまで計算を繰り返し行うという方法で、数値的に解いています。
SPICEによる確認: RC直列回路/RL直列回路の時定数
SPICE回路図ファイル Time_Constant_RC2.sch Time_Constant_RL2.sch(TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 RC直列回路の時定数はτ=RCで表されるので、それぞれRとLを単独に2倍3倍にして、時定数の変化を観測します。RL直列回路の時定数はτ=L/Rで表されるので、R固定でLを2倍3倍にした場合、およびL固定でRを1/2、1/3にして時定数の変化を観測します。RC回路、RL回路どちらも変化させたい素子値が2つずつあるので、2つの回路を併記しそれぞれ片方の素子値のみ変化させるようにします。
解析の設定と実行
(過渡解析)
比較のため2つの回路を併記したので、独立に可変させたい値が一つずつあります。通常のパラメトリック解析だけでは、実現できません。このような場合のテクニックとしてTopSpiceのテーブル関数を使っています。適当に変数を設定して(ここではわかり易いようにTAUとしました)、その変数下に実際に可変させたい素子値を表形式で設定できます。パラメトリック解析の設定では、ユーザー変数TAUの値を1,2,3と可変させます。
解析結果の検討 波形が増加しているグラフでは、最終値の63.2%に達するまでの時間が時定数です。減少するグラフでは、初期値の36.8%に達するまでの時間です。素子値を倍増または半減させることにより時定数が2倍となると、電圧電流の波形がどのように鈍(なま)る(または傾く)か確認できます。
9.3 RLC回路の過渡現象
微分方程式を立てる
図9.8 RLC直列回路

 インダクタまたはキャパシタのどちらか1種類だけを含む回路では、その電圧電流の過渡応答は、指数関数に従って変化し過渡状態から定常状態に落ち着いた。今度は、インダクタとキャパシタという電気エネルギー蓄積特性の違う素子両方を含む回路考える。


特性方程式の根の種類で場合分け
初期条件から任意定数を求める
SPICEによる確認: RLC直列回路の各部の過渡電圧電流
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RLC.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 上記RLC直列回路において、t=0でスイッチを閉じた後の回路電流と各素子両端電圧を観測します。スイッチは何をするかわかり易くするために入れましたが、回路的には意味はありません。サブサーキットとしていますが、中身は0Vの電圧源でSPICEでは電流計代わりによく利用されるものです。ここでは、電流計は必要ありませんが、回路に全く影響しないダミー素子として使用しました。
解析の設定と実行
(過渡解析)
上のSPICE確認にも書きましたが、念のため再度記載しておきます。
信号源に直流電源を使用して電源オンからの過渡現象をシミュレーションする場合は、回路によりますが、基本的に以下の両方(またはいずれか一方)の設定が必要となります。
・キャパシタでは初期電圧、インダクタでは初期電流を、「IC=」で設定する。(通常はデフォルトでIC=0となっている。)
・過渡解析設定で、UICオプションを有効にする。(過渡解析の初期バイアス計算を行わずIC設定を採用する。)
以上の設定により、直流電源入力がステップ関数として計算処理されることになります。
 この回路は、各定数の関係に従い、過制動、臨界制動、減衰振動という現象を発生します。それを抵抗値をパラメトリック解析で変化させて観測します。
解析結果の検討 2√(L/C)=63.2455...なので、各場合の抵抗Rの値を以下のように設定して、波形が得られました。
過制動:  R=300>2√(L/C) ------- 一度増加した値が振動をしないで減少する(回路電流の場合)。
臨界制動: R=63.2455=2√(L/C) --- 過制動と減衰振動の境界。一度増加した値が指数関数に従い減少する。
                          
(回路電流の場合)
減衰振動: R=10<2√(L/C) ------- 正弦波が指数関数的に減衰する(回路電流の場合)。
SPICEによる確認: RLC直列回路をSPICEと数式で解く
SPICE回路図ファイル Transient_Response_RLC_ODE.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 上記と同じ回路を、今度は3つ併記しました。左側の上から過制動、臨界制動、減衰振動の定数に固定しています。右側の3つは、左側の回路の回路方程式を解いた結果をアナログビヘイビア・モデルで記述した回路です。
解析の設定と実行
(過渡解析)
微分方程式を解いた結果の式は複雑なので、.PARAMコマンド(または.FUNCも使用可)を複数個使って部分に分けて数式を記述しています。
解析結果の検討 グラフの2〜4段目は、SPICEの過渡解析アルゴリズムによる波形と微分方程式の解の式による波形をそれぞれ表示しています。いずれもぴったりと一致し、得られた解の数式が合っていることが確認できました。
9.4 過渡現象の初期値
初期条件の特別な
場合
 微分方程式の形で得られた回路方程式を解くと、一般解には微分の階数個の任意定数が含まれる。この任意定数は、回路のt≦0-のときの条件を検討して、t≧0+のときの初期条件を方程式に代入することで、決定することができる。
回路にキャパシタやインダクタが含まれていても、t≦0-においてこれらに全くエネルギーが蓄積されていない場合は、初期値は単純に電圧電流を0として計算すればよい。また、エネルギーが蓄積されている場合は、t≦0-における電圧電流の状態をt≧0+のときの初期条件として使用できる。
ところが、次のような特別な場合は、上記の方針を使うことはできない。
・キャパシタまたはインダクタがそれぞれ複数あり、
・t≦0-においてキャパシタやインダクタにエネルギーが蓄積されていて、
・t≧0+においてスイッチの切り替えなどによりその接続が変わる場合、
これらの条件が成り立つ場合は、下記の2つの原理により初期条件を決定する。

0-とは、t<0の領域からtを0に近づけること。0+とは、t>0の領域から近づけること。したがって、t≦0-とt<0、およびt≧0+とt>0は同じ意味を示す。例えば単位ステップ関数は、t=0においては0〜1のどこにあるかを決められないが、このような場合には、0-と0+の方が、ステップ関数の特性をうまく表現していると言える。
総電荷不変の原理 対象回路内のキャパシタ(キャパシタンスC)にt≦0-において十分な時間電流が流れていた場合、キャパシタには電荷q=Cv(0-)が蓄えられている。t=0においてスイッチ投入や開放があり、総電荷が変化するような状態になっても、電荷は瞬時に変化できないので、それまでの総電荷を初期値としてt>0の計算に使用できる。
 
総磁束不変の原理 対象回路内のインダクタ(インダクタンスL)にt≦0-において電流が流れていた場合、インダクタには鎖交磁束φ=Li(0-)が存在する。t=0においてスイッチ投入や開放があり、総磁束が変化するような状態になっても、磁束は瞬時に変化できないので、それまでの総磁束を初期値としてt>0の計算に使用できる。
 
SPICEによる確認: 総電荷不変の原理
SPICE回路図ファイル Initial_Condition_CC.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 左上の回路図において、t=0-まではキャパシタC1にRを通して電荷を蓄えて十分な時間が経過した後に、t=0でスイッチをオンするとC1またはC2両端電圧v(0+)がどうなるかを調べたいとします。スイッチは上のSPICE確認例「RLC直列回路の各部の過渡電圧電流」などで述べたように、0Vの電圧源を使ったダミーです。
スイッチによる回路状態の変化を含んで回路方程式から解くためには、キャパシタC1について総電荷不変の原理を適用します。具体的には、スイッチオン前の総電荷とスイッチオン後にキャパシタC1とC2が並列になった状態での総電荷が等しいという条件を使います。従って、t=0+以降の状態を決めるキャパシタC1両端の初期電圧は、v(0+)=C1/(C1+C2)×E となります。左下の回路は、左上の回路の回路方程式(線形微分方程式)を解いた結果を、アナログビヘイビア式で記述したものです。SPICE解析との比較のための部分です。
一方で、SPICE回路解析の場合は、バイアス計算の初期電圧としては、t=0-の電圧が必要になるので注意して下さい。これは、SPICEの回路解析アルゴリズムが節点解析法を基本としているからです。したがって、左上の回路図でキャパシタC1の初期電圧は、スイッチオン直前の電圧を使って、IC={E} とします。
t=0-までのC1両端の電圧の様子を見るために、右下の回路を作成しましたが、時間軸は本当は左側にずれています。ただの参考として考えてください。
解析の設定と実行
過渡解析の設定では、UICオプション設定をし、素子側でIC=により初期値を設定します。また、最大時間ステップ間隔を最終時間の1/1000以下である1usとして、計算精度が落ちないようにします。
解析結果の検討 波形グラフの1段目が、SPICEの過渡解析アルゴリズムによる波形V(1)と微分方程式の解の式による波形V(2)を表示しています。このグラフはスイッチオンがt=0で行われた以降の波形です。完全に一致し、得られた解の数式が合っていることが確認できました。C1両端電圧は、スイッチオンの前には充電されE=3Vに収束していますが、スイッチオン直後に総電荷不変の原理にしたがい電圧がC1/(C1+C2)×E=2.04Vとなることが読み取れます。
SPICEによる確認: 総磁束不変の原理
SPICE回路図ファイル Initial_Condition_LL.sch (TopSpice 8 回路図ファイル)
クリックで拡大
回路図の作成 左上の回路図において、t=0-まではインダクタL1にRを通して電流を流していて十分な時間が経過した後に、i(0-)=E/Rを流してが流れていて、t=0でスイッチをオンするとRを流れる電流i(0+)がどうなるかを調べたいとします。スイッチは上のSPICE確認例「RLC直列回路の各部の過渡電圧電流」で述べたように、ダミーです。ここでは、SPICEでエラーとなるインダクタの直接並列を防ぐために、微小抵抗を使っています。
スイッチによる回路状態の変化を数式で求めるためには、インダクタL1について総磁束不変の原理を適用します。具体的には、スイッチオン前の総磁束とスイッチオン後にインダクタL1とL2が並列になった状態での総磁束が等しいという条件を使います。従って、インダクタL1の初期電流は、i(0+)=(L1+L2)/L2*E/R となります。左下の回路は、左上の回路の回路方程式(線形微分方程式)を解いた結果を、アナログビヘイビア式で記述したものです。SPICE解析との比較のための部分です。
一方で、SPICE回路解析の場合は、バイアス計算の初期電圧としては、t=0-の電圧が必要になり、初期電流で考える場合は、t=0+の電流が必要になるので注意して下さい。これは、SPICEの回路解析アルゴリズムが節点解析法を基本としているからです。したがって、左上の回路図でインダクタL1の初期電流は、スイッチオン直後の電流を使って、IC={(L1+L2)/L2*E/R} とします。これは微分方程式の任意定数を求める場合の初期条件と一致しています。
t=0-までL1を流れる電流の様子を見るために、右下の回路を作成しましたが、時間軸は本当は左側にずれています。ただの参考として考えてください。
解析の設定と実行
過渡解析の設定では、UICオプション設定をし、素子側でIC=により初期値を設定します。また、最大時間ステップ間隔を最終時間の1/1000程度である500nsとして、計算精度が落ちないようにします。
解析結果の検討 波形グラフの1段目が、SPICEの過渡解析アルゴリズムによる波形と微分方程式の解の式による波形を表示しています。このグラフはスイッチオンがt=0で行われた以降の波形です。完全に一致し、得られた解の数式が合っていることが確認できました。L1を流れる電流は、スイッチオンの直前にはE/R=30mAに収束していますが、スイッチオン直後に総磁束不変の原理にしたがい電流が(L1+L2)/L2*E/R=45mAとなることが読み取れます。

Home | What's Simulation | How to use | Links | Books | Services | About us | Contact us | Blog

Copyright(C) 2012 SimCircuit Technologies Co., Ltd.